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最高裁判所第一小法廷 昭和55年(行ツ)150号 判決

鹿児島市伊敷町三一六三番地

上告人

南日本高圧コンクリート株式会社

右代表者代表取締役

松下嘉明

右訴訟代理人弁護士

松村仲之助

鹿児島県川内市若葉町一番二五号

被上告人

川内税務署長

柳徳男

三鷹勝幸

右当事者間の福岡高等裁判所宮崎支部昭和五一年(行コ)第一号法人税更正処分取消請求事件について、同裁判所が昭和五五年九月二九日言い渡した判決に対し、上告人から全部破棄を求める旨の上告の申立があった。よって、当裁判所は次のとおり判決する。

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人の負担とする。

理由

上告人の上告理由について

所論の点に関する原審の認定は、原判決挙示の証拠関係に照らし、正当として是認することができる。原審の確定した本件事実関係のもとにおいて、上告人と訴外植村組との間の本件取引につき、その行為又は計算を容認した場合には法人税法一三二条一項にいう「法人税の負担を不当に減少させる結果となると認められるものがある」とした原審の判断は、正当として是認することができる。原判決に所論の違法はなく、論旨は、いずれも採用することができない。

よって、行政事件訴訟七条、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 角田禮次郎 裁判官 藤崎萬里 裁判官 谷口正孝 裁判官 和田誠一 裁判官 矢口洪一)

(昭和五五年(行ツ)第一五〇号 上告人)南日本高圧コンクリート株式会社)

上告人の上告理由

原判決には判決に影響を及ぼすこと明らかな法令の違背、及び理由不備もしくは理由齟齬の違法がある。

一 原判決は法人税法一三二条一項の「法人税の負担を不当に減少させる結果になる」と認められるか否かを判断する基準につき、第一審判決の「最低販売価額」説を採らず、「通常販売価額(時価)比較」説を掲げる(八丁裏)。然し原判決が云うとおり「通常の取引における製品の販売価額は同一種類、品質、型のものであっても、そこに高低自ら幅があるもの」であるから、一口に「通常の販売価額」又は「時価」といってもそれは極めて漠然たる概念であり、これに比し異常に低値かどうかを判断せよといわれても、法人の財産権に直接影響を及ぼす税務計算の判断基準としては具体的に機能することができない。よって原判決の掲げる判断基準そのものが不明確であり、この意味において理由不備のそしりを免かれない。

二 仮に原判決のいう「通常販売価額(時価)比較」説を採るとしても、原判決が本件PC矢板の販売価額が通常の販売価額に比し異常に低価であると判断するに至った判示(一)ないし(六)の事情(九丁ないし一九丁)は、これらを認定する証拠の採択に次のとおり経験則違法があるか、理由不備又は理由齟齬の違法がある。

三 以下原判決判示(一)ないし(六)の順に述べる。

(一) (植村組に対する従前の販売価額からの検討)について。

原判決は植村組に対する「従前の販売価額」と比較するというけれども、上告人は植村組に対し前期及びそれ以前に本件PC矢板のような大型(特に厚さ-以下同じ)のPC矢板を販売した事例はなく、本件矢板は当期において県導流堤工事のため特別に製作した大型矢板である(本件矢板が如何に大型のものであるかは、別表(四)の一、二における他社へ販売した矢板の規格と、同表(四)の三における植村組へ販売した矢板の規格とを較べてみると明らかである)。従って原判決が前例として掲げる別表(二)の(1)、(3)の矢板の販売(昭和四〇年一〇月三一日の販売)はたゞ一回限りの前例に過ぎず、然も当期に生じたものであり、これをもって「通常の販売価格(時価)」と認定することは到底できない。次の事情を考慮すれば尚更である(PC矢板が大型程製造原価が安くなることについては更めて述べない)。

(1) 別表(二)の(1)、(3)のPC矢板の価額は型枠を一時に償却するため型枠の価額を加えたものであり(橋口秀一の第一回証言二六三項、羽子田近の証言二八項)、本件矢板につき価額の値下げをしたのは、植村組が前記県導流堤工事の当年度分の工事を請負うに当り、県の予定価格が意外に低かった為無理して入札し(当初の入札は予定価格に達せず再入札している―乙第二一号証の二、三、入佐俊治の証言一〇四項ないし一〇九項)上告人に対し本件矢板につき値下げを要望し、上告人もその合理性を認めたこと、及び型枠の償却が不要となったことに因るものである(羽子田近の証言四五項ないし四八項)。

(2) 乙第二九号証の二(被上告人提出の積算資料)のコンクリート矢板(1)の欄の、本件PC矢板に類似した品名400-20〔20(厚)×40(巾)×400(長)〕を取り上げ、そのトン当り価額を計算すると一万四四三円であるところ、この製品は同欄の品名欄の最上部に書いてあるようにJIS(日本工業規格)製品であるから中味は中空である(乙第三四号証の五枚目の図1表2のSPH参照、なお橋口秀一の第二回証言一七項)。本件PC矢板は中空でないため中空製品より製造過程に手間がかからず安く出来るのであるが、甲第一二号証及び橋口秀一の第二回証言ないし四二項、二二八項ないし二三八項)によれば中空でないものは中空製品より原価においてトン当り約四、四七六円安くなるという。従って右一万四四三円の中空矢板も、これが中空でない製品であれば四、四七六円程度安くなり五、九六七円位の販売価額になるわけであり、この価額は本件PC矢板の販売価額と大差ない。

(3) 従って別表(二)の1、3のPC矢板は寧ろ上告人が高く売り過ぎたと云うべきであって、この価額をもって通常の販売価額(時価)ということはできない。

(二) (植村組以外との各取引における販売価額からの検討)について。

PC矢板は小型(厚さが薄く巾が狭い)程トン当り製造原価が高くなる(従って販売価額も高くなる)のであるから、大型の本件PC矢板の販売価額を検討するのに、植村組以外に売った小型のPC矢板の販売価額を調べても本来無意味である。

そして原判決は、上告人の定価表におけるトン当り販売価額の最低額と最高額の比率が、植村組に対する本件PC矢板の通常のトン当り販売価額と植村組以外に対するトン当り平均販売価額の比率と一致しなければならないとの前提に立ち、定価表の右比率七〇%を掲げて独自の推定をしているが、その定価表に掲げてある価額は、別表(六)において見るとおり他社のPC矢板の販売価額に比し著しく高く、然も他社のPC矢板(但し、厚さ二〇センチ以上の大型)はJIS製品即ち中空と推定されるので(上告人のPC矢板は乙第三〇号証の二の定価表に明記してあるとおり「無孔」即ち中空ではない―中空矢板の製造原価が高くなることは前記のとおり)一層高価に過ぎることになる。従ってこの定価表は販売政策上一応の「言値」を記載したものに過ぎず、各製品の価額はもとより製品別によるトン当り販売価額の変動幅においても販売実績とは異るものであり、原判決が試みたようなトン当り販売価額の最低額最高額の比率を求める基準とはなり得ないものである。

(三) (製造原価―原価計算表(A)からの検討)について。

原判決は、「―反証のない限り、PS部門の製品については種類を問わず、そのトン当り製造原価は大差なく、本件PC矢板の製造原価も七、四二三円程度と推認するのが相当である」というが、被上告人は上告人の販売価額を否認する以上自ら製造原価が立証すべき立場にあり、推認は許されないものである。

又、原判決は別表(四)の三から計算し「PC矢板がPC部門の製品全体に対して占める割合は重量比で九七・五%にもなるから、PS桁、PC矢板がPS部門全体の製造原価を大きく左右するものとは考え難い」というが、PC矢板の中でも製造原価に大差があり、本件PC矢板は大型であるため著しく安いのだというのが上告人の主張であるから、原判決のような重量比の検討を仮に行なうとしても、別表(四)の三の植村組に対し販売したPC矢板(五、二一八・六八一トン、販売価額三、三七五万三、三〇〇円)とPS部門の製品全体(五、六六四・一八七トン、販売価額四、一一六万五、二七〇円)とを対比しなければ意味がない。そしてその割合は重量比で九二・一三%、販売価額比で八一・九九%となる。

なお、原価計算表(A)は決算に間に合せるため短時日のうちに概算したものであるが、同表(B)は税務署の調査が始ってから精密に計算を見直したものであり、これにより算出されたトン当り製造原価四、九四〇円は、税務署の調査を予期しない頃、即ち植村組からPC矢板の値下げを求められた際、その検討のために上告人の職員橋口秀一が作成した甲第四号証の一ないし七の原価計算書の製造原価と近似するのであって(橋口秀一の第一回証言二二一頃ないし二四二項)原判決のように一概に無視できるものではない。

(四) (定価表からの検討)について。

定価表は小量注文生産を前提として作成されているばかりでなく(羽子田近の証言六七項)中空でないPC矢板にしては著しく高価に表示されていることは前記のとおりであり、然もどのような基準で各規格の価額を定めたのか全く証拠がないのであるから、原判決のように推計の資料にこれを用いることは合理性を欠くと云うべきである。

(五) (県導流提工事の設計額からの検討)について。

県がPC矢板の設計額につき用いた資料は、当然規格品則ちJIS製品のそれを用いている筈であるが、PC矢板のJIS製品は厚さ二〇センチ以上は中空であるから(乙第三四号証の五枚目、図1表2のSPH参照)前記のとおりトン当り製造原価は甚だ高い、よって県のPC矢板の設計額がキログラム当り一七・三ないし一七・八円であるとしても、それは中空でない本件PC矢板の販売価額を算定する参考とはならない。いわんや県の設計者はPC桁の資料を用いたと云い、又どのようにして右一七・三ないし一七・八円が算出されたかは遂に明らかでないのであるから、尚更参考に値しない。

(六) (建設物価誌からの検討)について。

原判決が引用する他社二社の矢板は、いづれも本件矢板に比し厚さが半分位である。従って製造原価は本件矢板より遙かに高いものである。特に圧力養生コンクリート矢板の一覧表は薄物ばかりで参考にならない。又長井式コンクリーー矢板については厚さ二〇センチ以上のものは中空(前記のJIS規格)であるから、中空でない場合はこれよりずっと安くなるわけであり、これも参考資料とはなり得ない。

四 以上のとおりであるから、原判決を破棄し更に相当の裁判をなされるよう求めるものである。

以上

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